日栄産資株式会社 外国人技能実習生受入れ事例
事業概要:高品質・クリーン環境での製造がもたらす競争優位性
日栄産資株式会社(以下、日栄産資)は、産業用梱包資材、特にフレキシブルコンテナバッグ(通称:フレコンバッグ)の製造で国内トップクラスのシェアを誇る企業です。粉状・粒状の物資を入れる大型バッグは、クレーンやフォークリフトで持ち上げて運搬できる産業資材として、多くの業界で活用されています。
日本国内で使用されているフレコンバッグの約92%は海外製造品ですが、同社は小ロット対応( 50 ~ 100 体単位)と徹底した品質管理を武器に、国内製造8%のシェアの中でトップに立っています。
特筆すべきは、同社の品質へのこだわりです。食品、医薬品などの運搬用バッグも製造しており、100,000クラスのクリーンルーム環境での生産体制を整えています。異物混入防止への細心の注意や、薬品用・食品用など工場ごとの明確な品質管理基準の設定など、高い衛生基準を維持しています。さらに、数百kgから1tまでのサイズや形状など、顧客の個別要望にも柔軟に対応しています。
外国人材採用の背景:日本人採用の難しさと定着率の課題
同社が約10年前に外国人技能実習生の受入れを始めた背景には、縫製業という業種特性上の人材確保の難しさがありました。
「製造業、特に縫製業は若い世代に選ばれにくい傾向があります。以前なら『手に職をつける』という意識の若者も多かったのですが、今はIT関連へと流れる傾向があり、なかなか若手が確保できません」と岡崎様は語ります。
また、日本人採用の最大の課題は定着率の低さです。2週間の研修期間は順調でも、実際に生産ラインに入ると自分の適性に不安を感じ、「私には向いていません」と3ヶ月前後で約半数が離職してしまうのが現状だといいます。
一方、技能実習生は3年間または5年間の期間を通じて勤務するため、安定した生産体制の維持に貢献しています。「国内トップの生産量を維持するためには、安定した人材確保が不可欠です」と岡崎様は強調します。
日栄産資では、最初は中国人実習生3名から始め、その後ベトナム人実習生を中心に、常時10〜15名規模で受け入れています。現在は4サイクル目となり、最近ではインドネシア人実習生も迎える予定とのこと。
「受入れ国は気質や文化の違いも考慮して選んでいます。中国から始めましたが、ベトナムへ、そして今度はインドネシアへと変化しています。日本人と近い考え方を持つ国の方々との相性を探りながら進めています」
言葉の壁を乗り越える3つの工夫
技能実習生との協働で最大の課題となるのが「日本語」の問題です。この課題に対して、同社では中国アセアン交流協同組合と協力して3つの効果的な対策を実施しています:
1. 専用作業ノートの開発
「日本人は普通のノートでメモを取りますが、実習生用に特別なフォーマットのノートを作成しました」と岡崎様。フレコンバッグの図面入りで、必要情報をチェック形式で記入できるノートは、実習生の理解を助けるだけでなく、管理者側が実習生の理解度を確認するツールにもなっています。「同じ説明をしたら同じ内容を書くはずで、情報量が少なければ理解できていないとわかります」
2. 多言語マニュアルの整備
「作業手順書や会社の目標など、日本人社員と全く同じ情報を共有できるよう、中国アセアン交流協同組合に翻訳をお願いしています」。情報格差をなくすことで、一体感のある職場づくりを目指しています。
3. 専用朝礼の実施
「日本人向け朝礼は約5分で終わりますが、その内容を実習生が理解するのは難しい。そこで実習生専用の朝礼を8時30分から10分間ほど別途実施し、その日の作業内容をじっくり説明しています」
これらの取り組みは試行錯誤の結果生まれたものです。「最初の1サイクル、2サイクル目ではここまでの対策はしていませんでした。継続的な受入れを実現するには、こうした地道な工夫が不可欠だと実感しています」
コロナ禍で学んだ「先輩・後輩サイクル」の重要性
実習生の育成において、同社が重視しているのが「先輩・後輩サイクル」です。コロナ禍でこの重要性を痛感したといいます。
「コロナ前は16人のベトナム人実習生がいましたが、一時期2人まで減少しました。新たに実習生を迎えた際、全員が新人で先輩がいない状態になり、現場の負担が急増しました」
実習生が互いに教え合う環境があれば、通常半年程度で基本的な業務を習得できるところ、先輩不在の状況では1年以上かかったという経験から、【実習生同士の継続的な技術伝承】の重要性を再認識したそうです。
日本人社員の意識や行動の変容
外国人実習生の受け入れは、日本人社員の成長にもつながっています。
「実習生に対する指導方法を考えることで、教育への意識が高まりました。日本人同士だと『経験を積めば自然と成長する』という考えでしたが、実習生には体系的な教育が必要です。この取り組みが会社全体の教育方針を見直すきっかけになっています」
また、「実習生のミスを見て、『私たちがミスしてはいけない、教える立場だから』と日本人社員の責任感も高まっています」と、予想外の良い効果も生まれているようです。
地域との共生を促進する取り組み
実習生の地域における受入れ状況も良好だと岡崎様は感じています。「この地域は徐々に外国人が増えており、スーパーや病院でも実習生の姿が当たり前になっています」
寮の周辺では、月に一度の清掃活動を実施するなど地域との交流も大切にしています。「最初は地域の方々に説明が必要でしたが、今では『引っ越しで家具を譲りたい』など、地域の方から声をかけていただくこともあります」
また、実習生の日本文化理解を深めるため、地元のひな祭りイベントへの参加や着物の着付け体験、花見などの季節行事も一緒に楽しむ機会を設けています。「日本の文化体験は実習生にとても喜ばれています」
組合に期待する役割:ギャップを埋める橋渡し
中国アセアン交流協同組合に対して、岡崎様は「入職前と後のギャップをなるべく小さくしてほしい」と期待を寄せます。
「自国での6ヶ月研修、日本での1ヶ月研修の間に、職場環境や仕事内容について具体的なイメージを持ってもらいたい。入職時のギャップが少ないほど、その後の成長も早いのです」
特に日本語の習得は最も重要な要素だといいます。「日本語ができる子は仕事も覚えが早く、コミュニケーションを取ることで更に日本語が上達するという好循環が生まれます。反対に、日本語に苦手意識があると、質問もできず、悪循環に陥りがちです」
制度改善への期待:業種別の細分化とハードル低減
技能実習制度・特定技能制度への要望として、岡崎様は業種カテゴリーの細分化を挙げます。
「繊維縫製業といっても、フレコンバッグ製造とテント製造では必要な技術が異なります。しかし現在は同じカテゴリーのため、実習生は職場で実際に使わない技術の試験も受けなければなりません。業種をより細分化し、実際の業務に即した実習内容にすることで、お互いの負担が減ると思います」
また、特定技能制度については「月給制や電子タイムカードの義務化など、細かい規定が多く、導入ハードルが高い」と指摘します。「繊維業界全体のイメージ改善と共に、真面目に取り組む企業にとって使いやすい制度への改善を期待しています」
高品質製品を支える技術継承の課題と将来展望
食品・医薬品用の高品質なフレコンバッグを製造する日栄産資にとって、技術継承は特に重要な課題です。「現在のベテラン技術者は60歳を超えており、次世代への技術伝承が急務です」と岡崎様は危機感を抱いています。
「クリーンルーム環境での製造や異物混入防止など、当社の製品は高い技術と細心の注意が必要です。作業のマニュアル化を進めていますが、品質を左右する細かな調整や検査は、技術者の経験と勘に頼る部分も少なくありません。技能実習生には、こうした高度な技術を習得してほしいと考えています。彼らが自国に帰って技術を広めるだけでなく、日本に残って活躍できる環境づくりも今後の課題です」
まとめ:外国人材との共存共栄
「縫製技術は国を問わず通用するものです。技能実習生には単なる労働力ではなく、技術を持った人材として成長してほしい。自国に帰っても習得した技術を活かして活躍してもらえれば、私たちの指導も報われます」と岡崎様は締めくくります。
日栄産資様の事例は、外国人技能実習生制度を単なる人手不足解消の手段としてではなく、互いの成長と発展の機会として活用している好例と言えるでしょう。言葉や文化の壁を乗り越えるための具体的な工夫と、相互理解に基づく信頼関係の構築が、持続可能な外国人材活用の鍵となっています。
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